中国の漢方薬は、正式には「中薬」といい、中医学という考えに基づいています。日本の漢方薬も原点は中国ですが、日本に伝わってからは独自の発展を遂げて、今に至っています。そのため中国と日本とでは、漢方薬に対する考え方や病気のとらえ方、診察の方法などに違いがあります。同じ名前の処方もありますが、その内容や配合比率などは同じとは限りません。漢方では、病気を治すものは自然治癒力であると考えます。これを妨げているものを取り除き、体のバランスの調整をはかり、あらゆる方法をもってこの力を補い、増強して病気と対抗させ、傷ついた体を補修する方向へ導きます。漢方薬の場合は、個別に綿密なご相談を頂くことにより体質に合った薬を用いれば、副作用が出る可能性も限りなく少なく出来、全身の治癒能力が増加し、症状改善へと導くことが可能です。西洋医学中心の現代医学は、科学技術の発展によって精密な機器を駆使した検査が多数導入され、より早期に、より正確な診断を下せるようになりました。
薬局で市販されている漢方薬と病院で処方される医療用漢方製剤では、薬の名前が一緒であれば、含まれている生薬や成分は一緒です。市販薬は自己管理のもとで服用することから、有効成分が医療用漢方製剤の3分の2から2分の1の量に抑えられているものが多いようです。漢方薬は1800年も昔に中国で編集された『傷寒論(しょうかんろん)』など成書に基づいて作られた薬です。薬効成分のある植物や鉱物などを組み合わせてできているうえ、長い年月をかけておこなわれた多くの治療経験によって、その効果が裏付けられています。
煎じ薬とは漢方薬の構成生薬を煮つめたもの。煎じ薬の場合、においが強いのでエキス剤より効きそうな気がしますが、煎じるのに手間暇がかかりますし、独特のにおいにより気分が悪くなったりしてしまうこともあります。また人の手で煮つめていくので、濃度にばらつきがでてしまいます。こうした不自由な面を改善し、煎じ薬を独自の手法で乾燥させて飲みやすい形にしたものがエキス剤です。つまり煎じ薬とエキス剤は同じ成分です。エキス剤の場合は、におい、手間暇、持ち運びの不便さなどはありません。濃度も一定で安定しています。医療用漢方製剤として医療現場で使われるようになったのも、こうしたエキス剤が登場したためといえます。
一方、民間薬は先人の知恵によって受け継がれてきた治療法です。漢方薬のように植物や鉱物などを組み合わせて使うことはほとんどありませんし、実際に科学的な根拠に基づいているわけでもありません。薬と名前が付いているものの、その効果は疑問を残すところといえるでしょう。もちろん、水や白湯なしで直接飲むのはよくありません。口の中やのどにくっついてしまいますし、溶けるのが遅くなるので吸収のスピードが遅くなります。まれに胃を荒らしてしまうこともあります。漢方薬に限らずどの薬もそうですが、コップ1杯の水か白湯と一緒に飲むようにしましょう。漢方薬の原料となっている生薬のなかには、ジュースやお茶、牛乳などと一緒に飲むと、相互作用によって効きが悪くなったり、反対に効きが強くなったりするものもあります。水か白湯で飲むようにしてください。空腹時に漢方薬を飲むと、食べものの影響を受けないで小腸まで届き、腸内細菌によって吸収されやすい状態に変えられます。そのため効果的に薬の効果を発揮することができるのです。また、附子(ぶし)や麻黄(まおう)のように作用が強い生薬も、胃酸によって吸収が抑えられるため、おだやかに効かせることができます。
こうしたことから、漢方薬と民間薬では共通する植物や鉱物を使うことがあっても、その考え方やルーツ、医学における立場がまったく違うものだといえます。妊娠中、とくに妊娠12週に入るぐらいまでは、流産や奇形などの可能性もありますので必ず医師にご相談ください。それ以降であれば、胎児に影響がなく、出産や妊娠時のトラブル(むくみや便秘など)によいとされる漢方薬もあります。授乳中も薬の成分が母乳を通じて赤ちゃんにいってしまうので、やはり注意が必要ですが、妊娠中と同様、赤ちゃんに影響がない漢方薬もあります。体調が優れないときは、主治医に相談してみるとよいでしょう。
服用のタイミングには、食前(食事の30分以上前)、食後、食間(食後2〜3時間後)があり、吸収の状態、効果、安全性などを考慮して決められています。漢方薬の場合、吸収率を高めるために、とくに指示がないときは食前か食間に飲みます。西洋薬は一つの症状をとるために病態などを研究して作られた薬です。熱を下げる、痛みをとる、ホルモンの分泌をうながす、血管を拡張させるなど、一つの症状に対しての効果を求めています(対症療法)。一方、漢方薬は複数の生薬を用いているため、それらが相乗的に体に作用し、病気を治す力を高めていきます。そのため一つひとつの作用はおだやかであっても、いくつかの症状をまとめて解消していくことができます。このように西洋薬と漢方薬には、それぞれ得意とする分野や病気があり、最近はお互いの持ち味をうまく利用して、西洋薬と漢方薬を併用しながら病気を治していくケースも増えています。
漢方薬を構成する生薬は、すべて天然の植物や鉱物などをもとにしています。したがって、一般的には副作用の発生頻度や程度は化学物質を使った西洋薬より小さいといえます。しかし、まったくおきないというわけではありません。たとえば過去に小柴胡湯(しょうさいことう)という薬で間質性肺炎(肺の間質という場所に炎症が起こる病気の総称)という副作用がおきて、問題になったこともあります。いずれにしても漢方薬を飲んだときに、下痢、腹痛、胃もたれなど不快な症状が出たときは服用を止めて、医師に相談することが大切です。
西洋薬は痛みや熱をとる、血管を広げる、かゆみをとるというように、比較的、一つの症状や病態を改善するために用いることが多い薬です。一方、漢方薬はいくつもの症状を改善するために用いることが多い薬です。このように、西洋薬と漢方薬ではそれぞれ長所があり、治療ではお互いを生かした使い方をすることが少なくありません。たとえば糖尿病では、血糖値を下げるために西洋薬を使い、糖尿病によるさまざまな合併症や不快症状をとるために漢方薬を使うということがあります。ただし、肝臓病に使うインターフェロンと小柴胡湯の併用のように、併用が禁止されているケースもありますので医師や薬剤師の指示に従ってください。漢方薬が慢性病に適していると言われる理由は、病気そのものを治すだけでなく、体のバランス整えることで「病気を治す力」を付けていくことができるからです。したがって慢性病や長年の不調を改善する目的で飲んでいる場合は、飲み続けた方がいいといえます。
昭和51年にエキス剤が保険適応になって以来、現在では148種類の漢方薬が健康保険適用の対象になっています。なじみのあるほとんどの病気に対応していると言えるでしょう。ただ、病院によっては自費診療をおこなっているところもあり、そういう病院では健康保険が適用されないので、漢方薬は自費で購入することになります。心配なときは、あらかじめ健康保険が適用されるかどうか確認をとっておくとよいでしょう。また、一般薬局で買う漢方薬は、健康保険がききません。漢方薬を飲みたいときは、担当医に率直に希望を告げてみましょう。漢方医学を勉強している医師であれば漢方薬を処方してくれるでしょうし、あまり漢方薬について知らない医師であれば漢方薬に詳しい医師を紹介してくれると思います。もちろん、漢方薬が使えなかったり、西洋薬の方が優先させる病気や症状のときもありますので、必ず漢方薬が処方されるとは限りません。その場合は医師にどうして漢方薬では無理なのか、その理由を説明してもらうとよいでしょう。
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